大阪家庭裁判所堺支部 昭和42年(少ハ)6号 決定 1967年9月08日
本人 H・O(昭二二・七・一三生)
主文
本人を昭和四二年一一月七日まで中等少年院に継続して収容する。
理由
本件申請の要旨は、「本人は昭和四一年八月二三日大阪家庭裁判所堺支部において、暴力行為等処罰に関する法律違反、窃盗保護事件により中等少年院送致の決定を受け、同月二五日奈良少年院に収容され、昭和四二年七月一二日満二〇歳に達し、同年八月二二日少年院法第一一条第一項但書の収容期間を終了する者であるところ、その在院成績は、入院当初の二級下から昭和四一年一二月二級上に進級した直後同月中に暴行及び逃走(朝礼場に行進中突如逃走、約一時間後に発見連れ戻さる)の事故を起して降級され、昭和四二年五月には一級下に至つたものの、同年八月二日及び一一日の二回にわたり喫煙行為によりそれぞれ謹慎三日、同一〇日の処分に付せられた。ところで、同少年院は在院者の成績評価につき、等級制のほか得点制を併用し、原則として総得点二六五点に到達した者に限り退院を許可する方針であるが、本人は上記反則事故の都度減点され、昭和四二年八月一一日現在における得点は一五六点であり、上記所要得点に至るまで猶概ね五ヶ月間を要すると見込まれるので、少年院法第一一条第二項により、収容期間満了の翌日以降五ヶ月間収容を継続すべき旨の決定を申請する。」というにある。
二 同少年院分類保護課保田熊蔵作成の回答書、家庭裁判所調査官妹尾久子作成の意見書、本件審判における本人の供述並びに一件記録を総合すると、上記各事実のほか、以下の事実を認めることができる。
(1) 上記暴行並びに逃走事故による減点はその後の経過により概ね回復され、喫煙事故がなければ収容期間満了時にはほぼ必要得点に到達し得た筈であり、謂わば喫煙事故が本件申請の決定的要素をなしたものである。
(2) 喫煙事故の内容は、昭和四二年六月中頃退院した少年が、煙草(ハイライト)多数箱及びマッチを少年院付近に置いて行き、これを発見した在院者が寮に持ち込み、同月頃から七月中頃にかけて二、三人ないし十数人のグループで頻回にわたり喫煙したものであり、少年は同室者に誘われて六回にわたり喫煙し、このことが同年八月に至つて発覚した結果、上記謹慎処分のほか、一回につき六点、計七二点の減点を課せられた。
(3) 同少年院としては、かかる事故の発生を重視し、退院者に対しては何らの処置を採り得ないこともあつて、在院の喫煙者に厳重な処罰を加えることにより、同種事故の絶滅を期していることが窺われる。
三 上記認定事実に基き考えるに、院内において厳に禁止されている喫煙行為を反覆敢行することは、本人の遵法精神や自制力の欠如を示すものであつて、犯罪的傾向の未矯正を窺わせるに足り、この点において相当期間の収容継続はやむを得ないと言うべきである。しかしながら、他面、本人は当該事故がなければ近く本退院可能な程度に矯正の効果を受け来つたこと、事故の態様が追随的と見られること、既に一三日間の謹慎処分に服したこと、更に、未成年者による喫煙と雖も、仮にそれが一般社会生活上においてなされた場合、直ちに反社会的或いは犯罪的危険性の徴表と断ずることはできない性質のものであること等を併せ考慮すれば、これを他種の事故(例えば暴行傷害等)と同質のものとみなし、これによる減点のみをもつて収容継続期間算出の根拠とすることには若干の疑問なしとせず、むしろこの場合の減点は、期間決定の一資料に止めるのが相当であると思料する。
四 上記の見地から、本人に対しては、喫煙行為に対する十分な反省を加えさせ規律遵守の精神を更に強固ならしめるため、且つは家庭環境等の一層の調整を図るため、同少年院における平均在院期間(約一年二ヶ月とみられる)をも併せ考慮の上、本決定告知の日から二ヶ月間(昭和四二年一一月七日まで)に限り収容を継続するのが相当であると認める。
よつて、少年院法第一一条第四項、少年審判規則第五五条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 田川雄三)